安易な考えで始めてはならない区分マンション投資
不動産投資の代名詞ともいえるのが、区分マンション投資(ワンルームマンション投資)です。
区分マンション投資は一棟マンション投資に比べると、少ない自己資金で始められることや、一定以上の安定的な年収があれば金融機関からの融資がすんなり通る場合が多いことから、20代~40代のサラリーマンや公務員を中心に人気のある投資商品といえるでしょう。
しかし、いくら始めやすいからといって安易に不動産投資をするのは危険です。
投資用マンション斡旋会社の営業マンは、自分の営業成績のために様々な切り口から不動産投資のメリットだけを切り取って初心者投資家に物件を買わせようとします。
彼らが営業する際によく用いる常套句に「マンション投資は節税になりますよ!」「年金代わりになるので、将来も安泰です」といったものがあり、この表面的な耳触りのいい営業文句に惹かれて、さほど勉強や検討をしないまま興味本位で不動産投資を始めてしまうオーナーがいます。
そして、「不動産投資をはじめてみたものの、全然儲からずにマンションは手放した」という失敗談として語られます。
不動産投資は、趣味ではなく「事業」であることを忘れてはいけません。
”常套句”には失敗リスクが詰まっている
マンション投資には節税効果がありますし、ローンの支払いが終われば家賃がそのまま収入となり”不労所得”を得られるといった魅力もあるのは確かに事実です。
しかし、節税効果が顕著に表れるのは物件を購入した初年、または、長くてもその翌年のみです。3年目以降は格段に効果が薄くなり、節税はほとんど見込めなくなります。
加えて、建物が老朽化してくると部屋内の設備の経年劣化による修繕費がかさむうえ、区分マンションにおいては修繕積立金という毎月全戸のオーナーが共同出資してプールする共用部の修繕資金の積立額が増すため、「家賃がそのまま収入になる」ことはなくなります。
こうしたデメリットの部分は特にワンルームマンションにおいて顕著に現れやすいことから、ワンルームマンションは長期的な資産にはなりにくい投資商品なのです。
それでは、ワンルームマンション投資で失敗しないためにはどうすればよいのでしょうか。そのヒントは実際に投資をして失敗した人の”体験談”に隠されています。
ここでは、ワンルームマンション投資における失敗談と、失敗を回避するためのアドバイスを紹介します。
よくあるワンルームマンション投資の失敗事例
ワンルームマンションを対象とする不動産投資においてよくある失敗事例は以下の4点です。
営業マンの口車に乗ってしまった
投資用マンションを斡旋する会社の営業マンには毎月ノルマがあり、さらに物件を売れば売っただけのインセンティブがある場合が多くあります。
彼らはとにかく物件を売って自分の営業成績を上げたいのです。「節税になりますよ!」、「儲かります!」といった彼らの営業文句を鵜呑みにして投資をはじめてみたものの、購入前に聞いていた営業マンの話と投資の実情に大きな乖離があり、失敗するケースも多くあります。
営業マンは投資家に物件を買わせるのが仕事であり、投資家を儲けさせることが仕事ではありません。彼らの言葉を過信することなく、自分でも勉強して自分の知識や情報に基づいて投資判断を下せる投資家になりましょう。
退去費用が思った以上にかかる
賃貸経営において、入居者の入れ替わり(入退去)はつきものです。
入居者が退去すると、原状回復工事費用やクロスの張り替え、床材の補修といった各種修繕費が必ずといっていいほど発生します。
特に入居年数が長ければ長いほど修繕項目が多くなり、消耗や損傷の程度も大きくなるため費用がかさみます。
加えて、新しい入居者を探すための募集活動において、成約時に賃貸仲介業者に支払う広告費や賃貸管理会社に支払う業務委託手数料などがかかります(いずれも成約報酬のような名目でオーナーが支払うものです)。
新入居者から礼金をもらえれば実質的に相殺できる場合もありますが、礼金の金額が広告費と業務委託手数料の合計額を下回る場合は差額をオーナーが負担しなければなりません。
旧入居者の退去時にかかる費用と新入居者の成約時にかかる費用を合算すると大きな金額になる場合もあるので注意が必要です。
サブリース更新で大幅に利益が下がった
サブリースとは「一括借り上げ」と呼ばれることもあり、賃貸管理会社がオーナーから物件を借り上げ、一般の入居者に貸し出すという転貸借形態のことです。
サブリースの場合、空室が発生しても賃貸管理会社が賃料を保証してくれる「家賃保証型」という形態もあります。家賃保証型は空室リスクをオーナーは負わなくなるため、一見すると魅力的とも思えます。
しかし、サブリース契約で賃貸管理会社がオーナーに支払う家賃は「査定賃料の◯◯%」という契約内容になっている場合が多く、査定賃料はサブリース契約更新の都度見直されます。
したがって、契約更新後にオーナーに支払われる家賃が大幅に減額されるという事態になる可能性もあり得るのです。
サブリース契約においては特に契約内容をよく確認するようにしましょう。
売却益が出なかった
物件を保有していても思うように収益が出せなかったり、保有中に発生する費用を支払いきれなかったりという理由で物件を売却することもあるでしょう。
物件の売却をする際は基本的に売買仲介会社に依頼して買主を探してもらうことになります。
売買仲介会社は人脈や過去の売却成約価格に関するデータを蓄積している場合が多いため、価格の査定から売却戦略の立案といったあらゆる事項を任せることになるでしょう。
売買仲介会社が物件の売買に精通しているとはいえ、全てを丸投げしていると売買仲介会社に言われるまま安値で売ってしまい、売却益を出せなくなることもあり得ます。
売却をする際は、いくらまでなら価格交渉を受けられるかをオーナー自身でも判断できるようにしておきましょう。
購入した時の価格や保有期間中のトータル損益等を加味して、売却利益を出せる価格を下限値としてしっかりと持っておき、いくらで売却するといくらの損益になるのか、購入希望者からの提示価格を承諾してもいいのかをオーナー自身で判断できるようになっておくことが重要です。
ワンルームマンション投資で失敗してしまう主な理由
ワンルームマンション投資での失敗事例を紹介してきましたが、ワンルームマンション投資で失敗してしまう理由は何なのでしょうか。主な理由は以下の7つです。
ワンルームマンションの特性を理解していない
ワンルームマンションは管理がしやすく大型物件より投資額を抑えられるため、一見すると初心者でも扱いやすい不動産に思えます。
しかし、決してメリットばかりではないのがワンルームマンションです。
ワンルームマンション投資のデメリットの中で代表的なものの一つが、低利回りであるという点です。
利回りとは、投資元本に対して増えた金額の割合を指す投資用語です。1,000万円の物件から年間100万円の家賃収入(諸経費や税金を考慮せず)が得られる場合には、利回り10%です。
利回りが低いということは当該投資の収益性が低いことを意味しており、資金効率が悪いということです。
ワンルームマンション投資は低利回りになりやすいという傾向があります。
そのほかにもワンルームマンションに投資するうえではさまざまなデメリットもあります。
家賃収入の有無に関わらず管理費・修繕積立金という毎月の固定費がかかる点、空室リスクを分散できない点などです。
投資用物件としてのワンルームマンションの特性やメリットおよびデメリットをしっかりと把握してリスク回避を万全に行ったうえで投資をしましょう。
節税効果に期待しすぎている
先述したとおり、ワンルームマンションには利回りが低くなりやすいというデメリットがあります。
利回りが低い、家賃収入から運用コストとローン返済分を差し引いたとき、月間ないし年間のキャッシュフローが赤字になるケースが多くあります。しかし、赤字経営になることが承知のうえでもワンルームマンション投資を勧める不動産会社が後を絶ちません。
その背景の一つに、「節税対策で損益通算ができる」という謳い文句で集客をしているという事情が考えられます。
損益通算とは、給与所得や事業所得といった各所得の収益と損失を合算できる制度のことです。
給与所得の高い人が不動産賃貸業からの事業所得で損失を計上することで、全体の所得を圧縮して節税できるというスキームです。
節税しながら資産を形成できるというメリットがありますが、節税効果に期待しすぎると、節税額より不動産賃貸業での損失の方が多くなり、結局赤字になってしまうのです。
お金を手元に残すためにそれより多くのお金を支出してしまっては本末転倒といえます。
節税のみに主眼を置いて不動産投資を行うのは賢明でない場合が多いのです。
営業担当者の話を鵜のみにしてしまう
「不動産投資を始めてみたいけれど初心者なので知識がない」という人が引っ掛かってしまいがちなのが、営業マンのセールストークです。
営業マンは自分のノルマや会社の利益のためにマンションの販売を行います。
投資家側の都合は深く考えずに営業を行うので、投資家に知識がなくても「この人は買う」という判断をしたら売ってしまうのです。
ワンルームマンション投資において、相場より高い価格で購入したり、空室リスクが高い物件を購入したりするのは致命的な失敗でしょう。
しかし、営業マンはこれらが致命的なミスであるとは説明せず売りつけてきます。
中には「物件を売ったら終わり」という意識で仕事をしている営業マンもいるため、営業マンの耳触りの良い営業文句を鵜呑みにするのは大変危険です。
不動産投資で失敗しないためには、投資家自身も勉強や調査を万全に行い、営業マンが提供する情報を自分で精査できるようになる必要があります。
かかる経費を見落としがち
不動産業者が提示するシミュレーションでは大きなリスクを考慮していない場合もあります。
このため、提示されるシミュレーションを見て「意外と簡単そうだ」と感じて購入を決めてしまう人は多くいます。
管理手間や経費が少ないというメリットがあるワンルームマンションにおいては特にそのケースが多いのが現状です。
ワンルームマンションの管理は、戸建や一棟マンションの管理よりは経費が少なくて済みますが、それでも一定の経費はかかります。
管理費や修繕積立金、税金(固定資産税・都市計画税)、設備の交換や修理の費用といった経費が定期的または突発的に発生します。
物件運営に係る経費をすべてピックアップしてシミュレーションを行い、投資家自身で収支計算をしたうえでメリットのある投資か否か判断しましょう。
管理会社の存在を重要視していない
投資初心者や副業として不動産投資を行う方にとって、経験と知識がある管理会社は非常に頼りになる存在です。
管理会社はオーナーの代わりに家賃集金や入居者募集、入居者からのクレーム対応といったあらゆる物件運営に係る業務を行ってくれます。
その一方で、ワンルームマンション投資の失敗原因として管理会社の管理の質が挙げられることもあります。
同じ物件を運用したとしても、どの管理会社に管理を委託するによって平均入居率や各入居者の平均入居期間が変わってくるものです。
管理会社にはそれぞれに特色があり、ワンルームマンションが得意な業者もいれば不得意な業者もいます。
管理会社を決める前に当該会社の得意分野と不得意分野を把握し、自分の投資物件にその管理会社が適切か否かをきちんと見極めたうえで管理委託先を判断しなければなりません。
サブリース制度に安心してしまう
サブリース制度とは「一括借り上げ」と呼ばれることもあり、賃貸管理会社がオーナーから物件を借り上げ、一般の入居者に貸し出すという転貸借形態のことです。
サブリース制度においては賃貸管理会社がその部屋を借りてくれるため、家賃保証制度がある場合は空室になっても家賃収入を得られます。
一見するとサブリース制度はオーナーにとって非常にメリットのある制度に思えますが、永続させられる制度ではありません。
サブリースも賃貸借契約の一種である以上、契約期間があります。契約期間が満了すると、賃貸管理会社側からの契約更新の拒絶や家賃の減額交渉といったオーナーに不利な事由が発生することもあるため注意が必要です。
加えて、サブリース制度においては本来得られる家賃の5%〜20%を賃貸管理会社に中間マージンとして抜かれている場合が大半です。
空室リスクを負わない分の代償を支払っているという認識を持ちましょう。
家賃保証制度があるからといって安易にサブリース契約をしてしまうと、家賃収入が20%も中間マージンとして抜かれてしまったり、更新の度に契約内容が変更されてオーナーに不利な条件でしかサブリースができなくなったりするケースもあります。
サブリース制度を過信せず、空室リスクはオーナー自身で回避する努力が必要です。
購入前の確認不足
中古物件に多く見られる失敗の要因の一つとして、購入前の確認不足があります。
確認対象としては、入居者情報や修繕積立金の積み立て状況といったことが挙げられます。
入居者がすでにいる物件を購入する場合は家賃滞納の有無や家賃保証会社への加入の有無といった入居者情報を確認し、リスク回避を行うことが重要です。
家賃を払ってもらえなければ賃貸経営が成り立たないうえ、滞納入居者を追い出すとなると訴訟費用もかかります。
既存の入居者に家賃を支払えるだけの経済力がある場合でも、家賃保証会社に加入してもらうことで家賃収入に担保に繋がります。
マンションは外壁やエレベーターをはじめとする共用部分の大規模修繕が定期的に予定されており、大規模修繕に係る費用は修繕積立金から支払います。
修繕積立金が不足していると、大規模修繕を行う際に全オーナーから一時金として不足分を徴収される可能性があります。
修繕積立金が十分にプールされているか、積み立て状況を事前に確認しましょう。
本項目で述べた事項はワンルームマンションを経営するうえでは重要な要素であり、すべてについて情報を集めたうえで投資するメリットのある物件か否かを判断しなければなりません。
この確認を怠り、「利回りが高いから」や「値上がりしそうだから」といった安易な理由で投資判断をしてしまうと、大きな失敗に繋がる危険性が高まります。
まとめ
ワンルームマンションは少ない初期投資で始められたり、管理手間を少なく済ませられたりするというメリットはあります。
その一方で営業マンの営業文句を鵜呑みにしたり、自身での勉強や調査を十分に行わずに投資を行なったりすると、大きな損失を出してしまうこともあり得ます。
事前に必要な資料や情報を収集し、万全な状態で投資判断ができるように投資家として努めましょう。
なお、上述の失敗事例や対策等はあくまで一般論であり、個別具体的な考え方や投資手法は物件によってケースバイケースです。
より詳細な情報やノウハウ等についてはお気軽にお問い合わせください。