インカムゲイン(運用益)である「家賃収入」、そしてキャピタルゲイン(売買差益)となる「不動産売却益」。
この2つが主な収益源となるのが不動産投資ですが、仮に運用時に多額の家賃収入を得られたとしても、売却時にそれを上回る損失を出してしまっては、元も子もありません。
したがって、いかにして損失を出さずに不動産を売却するか、という「出口戦略」を明確に策定し、家賃収入と不動産売却益を合わせた総利益をどれだけ最大化できるか、が極めて重要です。
では、不動産を売却するのに最良のタイミング、そして注意しておかなければならない点とは、どのようなものがあるのでしょうか?
売るのに最もふさわしい、4つのタイミング
不動産は現物資産であるがゆえ、時間の経過によって、必ず何らかの変化が発生します。
その変化を見逃さず、売却に最もふさわしいタイミングを見計らう必要があります。
そしてそのタイミングは、大きく4つに分類されます。
1.売却額が購入額を上回っているとき
日本では新築物件の価値がとても高く、経年に伴って価値が下がる傾向にあります。
取得から10年で、ほぼ全ての物件において売却額は購入額を下回ります。
売却によって税引後の家賃収入1年分の5〜10倍ほどの利益が見込めるようであれば、売却の検討に値するタイミングと見てよいでしょう。
2.物件の維持に多額の費用が発生する見込みがあるとき
物件は築年数10年を過ぎると、人の利用および経年劣化により、点検や修理のメンテナンスが必要になってきます。
設備や内装の交換や修繕、また物件全体の大規模修繕工事のタイミングで、積立金の状況によっては追加費用の徴収も起こり得ます。
新たなコストが発生する前に売却してしまうのも、一つの手です。
3.減価償却期間が終了するとき
不動産取得費用は、木造住宅で22年、鉄骨鉄筋コンクリートまたは鉄筋コンクリート住宅で47年と、定められた減価償却期間内で分割して、経費として計上できます。
ところが減価償却期間が終了すると、経費として計上できなくなるため、所得税や住民税が大きく増え、実質的な利回りが下がるので、その前に売り抜けてしまうのが得策です。
4.デッドクロスにより、キャッシュフローがマイナスになる前
ローンを返済していると、元金が減価償却費を上回る状態(デッドクロス)が必ず訪れます。
ローンの利息は経費として計上できますが、元金は計上できないため、キャッシュフロー自体には変化がなくても、経費の減少によって税額が上がり、減収につながります。
購入前から予測を立てておく必要があります。
ただ売ればいいわけではない
――注意すべき4つのメソッド
さて、いざタイミングを見図れたとしても、闇雲にただ売却すればいいわけではありません。
売るために注意すべき点は、この4つのメソッドに隠されています。
1.売却時にかかる税金・費用・スケジュールを把握する
売却には仲介手数料・印紙代・抵当権抹消登記費用・ローン返済・譲渡益課税が発生し、これらを差し引いたものが売却益となります。
特に譲渡益課税は所有年数によって税率が異なり、保有期間にも注意する必要があります。
また、現物資産なので流動性が低く、実際に売却できるまでに平均で3〜6ヶ月程度かかる場合がほとんどです。
2.安易な修繕・リフォームを施さない
100万かけたリフォームで売値もそのまま100万上がらないように、修繕・リフォームに費やした費用分が、そのまま売却益に反映されるとは限りません。
売却のタイミングは利益が減少し始めるときが多いので、安易に多額の出費を重ねるのではなく、不測の事態に備えて自己資金を確保しておくことが肝要です。
3.複数社に見積もりを依頼する
売却する際には売却仲介業者に依頼するのが一般的ですが、複数社に相見積もりを取ることで、物件価格のあらかたの相場を掴むことができます。
また、比較することによって、それぞれの仲介業者の特徴、担当者の力量、自分との相性も見えてくるので、自分に最も適した仲介業者を見極められます。
4.入居者がいる状態で売却する
不動産投資の物件は、入居者がいる状態でも売却が可能(オーナーチェンジ物件)です。
入居者がいることにより、安定した家賃収入があらかじめ約束されているため、次の所有者候補である不動産投資家に人気があり、高く売れる傾向にあります。
特にワンルームタイプは購入検討層が投資家中心になるので、売却に有利です。
物件の「最後のリアルな姿」までを想定して、はじめて「出口戦略」となる
ここまで売却における最良のタイミング、注意しておかなければならない点について解説してきましたが、そもそも「出口戦略」とは、購入前の段階からイメージし、収益のロードマップを設計、実行しなければ意味がありません。
だとすれば、購入前の段階で最重要となる視点とは何か――それは、何を差し置いても「敷地権」にほかなりません。
登記簿謄本にも記載のある「敷地権」とは、マンションの部屋(建物)だけを残して、土地部分だけを売却することはできず、土地と部屋(建物)がセットになっているように、マンションなどの区分建物(一つの建物の中に、独立し区分された部屋・専有部分が複数ある建物のこと)で、専有部分と分離して処分できない「敷地に関する権利」のこと。
不動産投資物件を取得するにあたり、そんな敷地権の割合を念頭に置くことで、以下のどのアプローチが最適なのか、を的確に判断することができます。
- 建物が存在する状態で、土地と建物のセットで売却する
- 建物を解体して、土地として売却する
- 建物を解体して、再度建物を建てて運用する(アパートとして売却する/土地を分筆して、それぞれ戸建てとして売却する、など)
つまり、物件の「最後のリアルな姿」までを想定し、またはそこまで想定している業者から購入することで、はじめて本質的で意味のある「出口戦略」なのだと言えます。
このように、物件を多面的に見られる、想像力を働かせることができるパートナーと出会うこと、そして何より、不動産投資家自身がその眼で多面的に見て、想像力を働かせることこそが、不動産投資の成功の鍵を握っているのです。