不動産投資において、減価償却は節税対策として重要なものです。
しかし、減価償却はその計算方法が複雑でよく分からないという方もいらっしゃるでしょう。
とくに、土地と建物は減価償却の適用が異なるため計算に注意が必要なのです。
この記事では、減価償却の土地・建物比率の決め方や計算方法・具体的なシミュレーションまで分かりやすく解説します。
減価償却の仕組みや計算方法を知って、不動産投資で上手に活用してください。
不動産投資における減価償却
減価償却とは、不動産や設備などの購入にかかった費用を、一定の期間に渡り按分して経費計上していく会計上の処理のことを言います。
不動産などの固定資産は、時間が経つにつれてその価値が減っていくものです。
そのため、購入した年に一度に購入費用を経費計上するのではなく、減少していく価値として何年かに分けて経費計上していきます。
例えば、1,000万円で不動産を購入した場合は、購入した年に1,000万円を計上するのではなく、毎年100万円を10年に渡って計上していくという方法です。
この減価償却は、不動産投資するうえで大きなメリットとなります。
「不動産投資で節税できる」ということを耳にした方もいらっしゃるでしょう。
不動産投資で節税できる方法がこの減価償却なのです。
減価償却は、減少した価値を経費計上するため実際の支出は伴いません。
そのため、減価償却額の分、実際の利益よりも低い額で確定申告でき、税金を抑えられるのです。
減価償却について詳しく知りたい方は、以下の記事でも解説しているので参考にしてみてください。
減価償却における土地・建物比率
減価償却は、すべての固定資産に適用できるわけではありません。
減価償却が適用できる固定資産には次のような条件があります。
・業務用に使用していて、時間の経過とともに価値が減少する固定資産
・使用期間が年以上かつ取得価格が10万円以上の資産
・棚卸資産・有価証券・繰延資産以外のもの
・事業などの業務に用いられる建物・設備・器具など
美術品や骨とう品のように、時間が経っても価値が損なわれないものは、減価償却の対象外となります。
減価償却できるのは建物部分のみ
不動産投資の減価償却で注意しておきたいことが、「減価償却できるのが建物のみ」ということです。
土地は時間の経過とともに価値が減少していくものではありません。
そのため、土地は減価償却の対象外となってしまうのです。
土地・建物比率は売買契約時に当事者間で決める
不動産の多くは土地と建物をセットとした価格で売買されており、そのうちいくらが土地代なのかを意識することはあまりないでしょう。
しかし、減価償却するうえでは、いくらが土地代でいくらが建物代なのかは、とても重要になります。
そのため、売買価格の内訳を知る必要があります。
売買価格の土地と建物比率の決め方は、売買契約時に当事者間の交渉で自由に決められるのです。
常識の範囲内の金額で取り決めた額を、売買契約書に明記することで比率を確定できます。
できるだけ建物価格を高くしてもらうのがポイント
減価償却は建物にしか適用できないため、節税効果を高めるにはできるだけ建物価格を高くしてもらう必要があります。
売買契約時に売主と交渉して、なるべく高くしてもらえるようにしましょう。
ただし、節税効果を高めようと明らかに高すぎる建物価格の設定はしてはいけません。
高すぎる建物価格を設定すると、確定申告の際に税務署から指摘や否認を受ける可能性もあるのです。
建物の経過年数や資産価値を考慮し、常識の範囲内で価格を設定するようにしましょう。
売主が不動産会社の場合は消費税に注意
売主が不動産会社の場合、建物価格を高くしてもらうように交渉してもなかなか応じてもらえない可能性があります。
不動産売買では、土地は消費税がかかりませんが、建物には消費税が課せられるのです。
そのため、建物の価格が高ければ高いほど不動産会社は、消費税の負担が大きくなり、損となってしまいます。
不動産会社はなるべく消費税を抑えようと建物価格を低く設定するように交渉する可能性があるので注意しましょう。
ただし、売主が個人や非課税業者であれば消費税がかからないため、建物価格を高くする交渉がしやすい可能性があります。
固定資産税評価額の比率で案分する方法もある
交渉で土地・建物の比率が決まらなかった場合や、契約書に記入されていない場合は「固定資産税評価額の比率で案分」となります。
固定資産税評価額での按分は建物の価格が低くなりがちなのです。
評価額については、「公課証明書」や「評価証明書」などで確認できるので、事前に確認するとよいでしょう。
固定資産税評価額での按分は、減価償却費用を大きく計上できない可能性があります。
しかし、税務署や地方自治体がその額を定めているため、客観的な金額であり確定申告などでの指摘を受けにくいというメリットがあるのです。
減価償却における減価償却期間の計算方法
減価償却では、固定資産が使用できる期間にわたって費用計上できるものです。
この期間は、法律によりそれぞれの固定資産に応じて細かく定められています。
減価償却期間は構造ごとの法定耐用年数で算出
構造 |
耐用年数 |
木造・合成樹脂造のもの |
22年 |
木造モルタル造のもの |
20年 |
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造のもの |
47年 |
れんが造・石造・ブロック造のもの |
38年 |
構造 |
耐用年数 |
木造・合成樹脂造のもの |
22年 |
木造モルタル造のもの |
20年 |
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造のもの |
47年 |
れんが造・石造・ブロック造のもの |
38年 |
新築のケース
新築の場合は、上記の表にあてはめた耐用年数がそのまま減価償却期間となります。
例えば、木造の新築アパートを購入した場合は、22年間に渡って減価償却を計上できるのです。
中古のケース
購入した物件が中古の場合、築年数が法定耐用年数を超えているか超えていないかで期間の計算方法が異なります。
築年数が法定耐用年数を超えていない場合の計算方法は、次のとおりです。
減価償却期間:(法定耐用年数–経過年数)+経過年数×20%
例えば、築年数が20年の鉄筋造り(耐用年数47年)の物件の場合は、
(47年-20年)+20年×20%=31年となるのです。
また、築年数が法定耐用年数を超えている場合の計算方法は、次のようになります。
減価償却期間:法定耐用年数×20%
そのため、築年数30年の木造物件(耐用年数22年)の場合は
22年×20%=4年となるのです。
減価償却期間が短くなれば、それだけ1年で経費計上できる額が大きくできます。
毎年の計上額を大きくしたい場合は、耐用年数を超えている物件を購入するのも一つの手段といえるでしょう。
減価償却額シミュレーション
減価償却額の計算方法は次の通りです。
減価償却額:建物価格×償却率
なお、上記の計算は定額法での算出法となり、定率法での減価償却費算出は計算が異なります。
また、償却率は建物の耐用年数により異なります。
主な償却率は次の通りです。
構造 | 耐用年数 | 償却率 |
木造・合成樹脂造のもの | 22年 | 0.046 |
木造モルタル造のもの | 20年 | 0.050 |
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造のもの | 47年 | 0.022 |
れんが造・石造・ブロック造のもの | 38年 | 0.027 |
償却率は取得年月日によっても異なるため、計算前に確認するようにしましょう。
ここでは、新築アパートと中古アパートを購入した場合の減価償却をシミュレーションしていきます。 それぞれのケースで土地と建物の比率が分かりやすいように、7:3と3:7で計算しているので参考にしてください。木造新築アパートのケース
次の条件で計算していきます。
・新築木造アパート
・購入価格5,000万円
【土地:建物 7:3の場合】
まず、減価償却期間を調べます。
木造アパートの場合、法定耐用年数は22年となり、新築アパートなのでそのままの期間が減価償却期間となります。
また、購入価格5,000万円の内訳は次のようになります。
土地:3,500万円
建物:1,500万円
よって減価償却額は次のとおりです。
1,500万円×0.046(償却率)=69万円
上記の場合、毎年69万円を22年間に渡って計上できます。
【土地:建物 3:7の場合】
法定耐用年数と償却率は上記の場合と同様です。
購入価格の内訳は次の通りです。
土地:1,500万円
建物:3,500万円
よって減価償却額は次のとおりです。
3,500万円×0.046(償却率)=161万円
建物割合が7割の場合、毎年161万円を22年間に渡って計上できるので、建物割合が3割の場合との差額は次のようになるのです。
(161万円×22年間)-(69万円×22年間)=3,542万円-1,518万円=2,024万円
築10年鉄骨造中古アパートのケース
次に、中古アパートを購入した場合の減価償却額を計算してみましょう。
条件は次のとおりです。
・鉄筋造アパート
・築年数10年
・購入金額 1億円
【土地:建物 7:3の場合】
まず、減価償却期間を調べます。
鉄筋造アパートの場合、法定耐用年数は47年となります。
築年数が10年なので減価償却期間は次の通りです。
(47年(法定耐用年数)-10年(経過年数))+10年(経過年数)×20%=39年
また、購入価格1億円の内訳は次のようになります。
土地:7,000万円
建物:3,000万円
よって減価償却額は次のとおりです。
3,000万円×0.022(償却率)=66万円
上記の場合、毎年66万円を39年間に渡って計上できます。
【土地:建物 3:7の場合】
法定耐用年数と償却率は上記の場合と同様です。
購入価格の内訳は次の通りです。
土地:3,000万円
建物:7,000万円
よって減価償却額は次のとおりです。
7,000万円×0.022(償却率)=154万円
建物割合が7割の場合、毎年154万円を39年間に渡って計上できるので、建物割合が3割の場合との差額は次のようになるのです。
(154万円×39年間)-(66万円×39年間)=6,006万円-2,574万円=3,432万円
上記のように、減価償却で計上できる費用は建物と土地の比率でも大きく変わってくるものです。
減価償却による節税効果を狙うのであれば、土地と建物の比率や償却期間を意識して物件を検討するとよいでしょう。
まとめ
減価償却における土地・建物の比率や計算方法・償却額についてお伝えしました。
不動産投資するうえで、減価償却は節税効果を得られる重要なものです。
その額は、土地と建物の比率によって大きく異なるので、売買契約の際には建物の比率を大きくすることでより節税効果を高められるでしょう。
この記事を参考に、減価償却の仕組みを理解し、不動産投資で上手に活用できるようにしてください。